2008年2月29日金曜日

美術39  うごめくもの

池袋駅
人ごみの中
天井を見る
化け物がうごめいている
だれも気づいていない

美術38  眠れぬ夜に

眠れぬ夜
台所に行く
包丁をじっと見る

2008年2月28日木曜日

美術37  同異空間の存在

小雨が降る夜の池袋
色とりどりの傘が行きかうなか、
汚れきった服をまとった右足のない浮浪者の男が
傘をさざずに、前方を見ずに、首を折れ曲がるほど下にたらして、左足だけでチョコチョコと
小さく小さく進む。
彼は何かをつぶやいている。
若くきれいな娘たちが彼の傍らをはずむように過ぎていく。
大通りには多くの車が往来している。

美術36  廃工場の空間と時間のゆがみ

だれもいない荒れ果てた大きな廃工場

キラキラと輝く大きなダイヤを床にそっと置く。

そのまま、放置する。

美術35 無時間の限定空間

遮断機の内側に入る。

目を閉じて、立つ。

電車との距離を肌で感じる。

ぶつかる寸前で飛び去る。

電車の風と音を体に入れる。

美術34 視線

部屋でテレビを観ている私。

なにげなく天井をみる。

天井板の隙間から私をのぞいている目と

目が合ってしまう。

美術33 鏡面の湖

鏡面の湖

人差し指

湖面に

そっと近づける

湖面をやわらかく

なでる

美術32 目覚める

深夜

自分の部屋で寝ていると

顔に風を感じて目覚める。

なぜか、

自分が草原の真ん中で寝ている。

美術31 喋る男

深夜

車の衝突事故

運転手席がつぶれている

足と胸が押しはさまれている男

血だらけ

重症なのだが

元気に喋っている

数分後

男の口が止まる

静かに目を閉じていく

美術30 海底

百年間

海底を漂い続けている

長い髪の

少女の首

美術29 子猫

深夜の学校

暗闇の長い廊下

子猫の泣き叫ぶ声が

響き渡る

美術28 バラの花びら

花瓶に生けられている

バラの花びらを

一枚づつ

ちぎって

数えながら

食べる女

美術27 日本刀

日本刀の柄に

紐を結びつけ

天井からつるす

下にベッドを持ってきて

眠る

美術26 台風の日

台風の日

山奥で

台風の音にあわせて

大太鼓をたたき続ける

美術25 黒い花瓶

黒い花瓶に

赤いバラが一輪さしてある

その前に座り

バラを見続けている

黒い体の猫

美術23 赤い風ぐるま

砂浜

赤い風ぐるまを海に向けて

立てる

風ぐるまの支柱に

紐を結ぶ

紐は海の中

深くへと続いている

美術24 腐りかけた赤ん坊

大きな川

腐りかけた赤ん坊の死体が

流れている

左足には、縄が結ばれていて

縄の先には

鉄アレイが結ばれている

美術22 鏡とバラ

何もない大きな部屋

隅に鏡を置く

鏡の対角線の隅に

赤いバラ一輪を置く

部屋に

ラジオの砂嵐音を流す

美術21 階段

長い階段

中ほどに

布テープで

ぐるぐる巻きにされた

人間が転がっている

美術20 枯れ葉

深夜

深い山の中

枯葉の中に

体を埋める

目だけを出す

世があけると

別の場所に移動する

美術19 砂浜

深夜

砂浜で

目だけを出して

体を埋める

日が昇ると

立ち去る

美術18 百年カレンダー

百年カレンダーを

洗濯機に入れ

スイッチを入れる

洗濯機に耳をあてて

水の音を聞く

美術17 時計

闇の草原の中

一人立つ

柱時計を抱えている

午前0時と共に

空に向かって叫ぶ

コケコッコ-

毎日おこなう

美術16 雨漏り

したたり落ちる水

その下に寝転び

口で受け続ける

美術15 長い洞窟

長い洞窟

闇を一本のろうそくで進む

足元を何かが走り去る

その時、

ろうそくの炎が消える

美術14 クギ

部屋の壁に釘を打ち付ける

隙間なく打ち付ける

全体を打ち終えたら

一本引き抜く

そして、部屋を出て行く

美術13 交差点

雨の夜

人通りのない信号機の交差点

中央に

膝を抱えて座る

美術12 盃

雨の日

傘を差さずに外に出る

ちいさな盃を置く

雨が満ちていくのを眺める

美術11 雨粒

雨の日

空を仰ぐ

目の中に落ちてくる雨粒を見る

美術10 散歩

深夜の散歩

もう一人の自分と

出会う

美術9 ヘビ



目覚めると

部屋がうごめくヘビで

満たされている

美術8 漂う少女

太平洋の真ん中

海面を漂う少女

他にはだれもいない

美術7 女

暗闇が薄れる頃

エレベーターが下りてくる

エレベーターの中

一つのボタンを一心不乱に押し続けている女

美術6 一匹の魚

月夜

広大な草原

ゆるやかな風が流れている

草むらの中で一匹の魚がはねている

美術5 白い椅子

台風の日

廃墟

うなりをあげている中庭の大木

大木の前に一脚の白い椅子

美術4 赤いボール

車が行き交っているスクランブル交差点

真ん中に真っ赤なボールを転がっている

美術3 両手を挙げる女

大きな駅の地下道。
大勢の人びとが行きかっている。
中央で髪の長い女が両手を挙げている。
そのまま動かない。

美術2 気配

丑みつ時、

幽霊がでるといわれるところへ、

小さなロウソク一本で一人で行く。

背中に何かの気配を感じた時、

一気に振り向く。

美術1 赤い花

テレビの上に赤い花を飾り、テレビをつける。
テレビを太めのロープでぐるぐる巻きにする。